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真・山猫騒動記 第2話
憎しみの襲撃者・・達?



強行突破をするかのような勢いで酒場に駆け込んだダークセルジュは部屋に入るなり、大声で叫んだ。
「くそ!逃げられたかっ!」
狭い隠し部屋内部には誰もいなかった。床には水溜りが出来ていた。
「ヤマネコ様ッ!!!」
「セルジュ!!」
「あ、あなた方っ勝手に入って来ないでください!!」
部屋の中に一人拳を握り締めて立ち尽くすダークセルジュを追うかのように、雪崩れ込んできたのはツクヨミ、キッドそして酒場のママで合った。ダークセルジュは静かに振り向く。
「・・・ここには用はない。行くぞ」
「え?お、お前なー!」
つかつかと歩いて出て行くダークセルジュだが、内心怒りと憎しみに燃えていた。
(・・・今日は上手く逃げられたが・・・必ず・・殺す)
「ったく、待てよ!!」


「セルジュ!!待て待てったら!!」
つかつかと早足に歩くダークセルジュの足を止めるために前に出て通せんぼをするかのように、手を広げた。
「お前!何か変だぞ?」
「・・どこがだ?」
「え・・そうだな。妙な服着たり、言葉遣いがバカ丁寧だしよ。いきなり怒り出したり・・どうかしたのか?」
「・・なのは・・」
「あん?」
「変なのは、ヤツのせいだ・・」
「ヤツ・・ヤマネコの野郎か?」
「・・・・・・・」
彼は瞬間目を細めた。何かを耐えるように、何かを押さえるように。
キッドはその表情に息を呑む。
『セルジュ』はキッドに何も言わずに歩き出した。
「あ、おい!!」
(・・何だよ。何であんな目するんだよ)
キッドは足早に歩くダークセルジュを追いかけながら、もやもやと胸の中にうずまく思いに戸惑った。
まただ、と思った。
消せない「違和感」。
沸き起こる違和感に伴う頭痛に彼女は髪をかきむしる。
「何をしている。置いていくぞ?」
『セルジュ』がテルミナの街の入り口に立って振りかえる。彼女は慌てて駆け寄った。
(そう言えば・・名前呼んでくれなくなったな・・)
気づいてちくりと胸が痛んだ。

ツクヨミは街を出て行く2人を蛇骨大佐の銅像の前で見送った。
去っていく『セルジュ』に、小声で「バイバイ」というと、彼女は宙に消えた。
ヤマネコの元へ帰るために。


「おい、セルジュ。こんなところに何か用でもあるのか?」
テルミナを出て数日後、キッドとダークセルジュは隠者の小屋と呼ばれる建物がある小島の岸辺に立っていた。
岸辺にはもう一舟、杭にしっかりと結ばれ繋がれているボートがあるだけで人っ子一人居ない。
それもそのはず、まだ夜明け前でほんの少し明るくなった空を見上げてキッドは盛大にあくびをした。
「私にとっては重要な用がな」
「はぁ??」
こんなトコでか?と言う表情をしたキッドに微かに笑む。
すっかり笑顔を浮かべなくなった『セルジュ』の珍しい笑みに、キッドは黙り込む。
「ついでにお前にとっても、重要かもしれないがな」
「・・さっきから何言ってるのか、わからねェ」
「善い事を教えようか、キッド」
珍しく名前を呼ばれてキッドは『セルジュ』をはっと見つめる。
「・・もしかして・・」
(さすが、勘の良い・・)
そう思いながら彼はうなづく。キッドはわなわなと拳を振るわせた。
「ヤマネコめ・・・こんなところに逃げてやがったか・・」
「待て。様子を見よう」
早速とばかりに弾丸のごとく飛び出そうとしたキッドを制する。はっとして『セルジュ』を見るが、彼は隠者の小屋と呼ばれる木の方へ目をやりながら、遠くを見ていた。見ているのだが、彼が見ているのはその内部。
キッドはその横顔を見つめた。
端正な顔にきつい眼差し。
そしてまた沸き起こる違和感。
彼女はかぶりを振った。違和感を振り落すように。
「・・・お」
「あ?どうした??」
キッドはダークセルジュの低い声に我に返る。様子がおかしい。
ぶるぶると遠くを見たまま、震えていた。
みるみるうちに、顔色が変わっていく。
「お、おい・・?」

ダークセルジュは息を呑んだ。今見た光景に。
彼は遠めで隠者の小屋内部を覗き見ていた。薄暗い小屋の中、横になり疲れを癒す『ヤマネコ』達。
すやすやと寝息が聞こえてきそうな小屋の中ひっそりと動く者が居た。
ヤツ・・ゾアだった。ゾアは周りで寝ているカーシュやラディウスを起さないように足音を潜めて近寄る。
『ヤマネコ』に。
ダークセルジュは無意識に自分の身体を抱きしめた。手のひらに汗をかく。
『ヤマネコ』は眠っていた。何か夢でも見ているのか、苦しそうに眉根を寄せている。
その『ヤマネコ』にゾアの手がのびる。
ぎゅ・・とダークセルジュは更に自分を抱く手に力をこめる。目をそらしたくてそらせなくて。
ゾアはぎし・・と音を立てて、寝台で寝る人物の足元に腰掛ける。そっと手を伸ばして・・・・・・。
「うわぁぁぁぁー!!!!!!!!やめろー!!!!!!!!!!!」
「セルジュ!?」
ヤマネコは拳に力を集中させ、放つ。
エレメントではない、純粋な力の爆発力。
木の幹にぶち当たり、激しい爆音を上げた。
「キッド!!!呼べ!」
「は?」
「ヤマネコだ!!!仇を討つのだろう?早く呼び出せ!!」
「中に突入したほうが・・今なら・・寝起きだしよ」
「やれ!!!頼むから・・早くッ!!」
キッドはあまりの剣幕に圧倒された。
(何なんだ?どうしたんだ?)
しかし”頼む”とまで言われてやらないわけにはいかない。こんなに必死に頼まれて、きっと何か訳があるのだろう。
「出て来い!!ヤマネコ!! 今日こそ決着をつけてやる!!」
大声で怒鳴った。果たして聞こえただろうか?と思いながらダガーを腰帯からはずして構える。

「キッド!!!」
木の幹から駆け出てきたのは、忘れもしない愛しい人を、最も大切な人を殺した『ヤマネコ』。
ヤマネコは馴れ馴れしく自分の名前を呼びながら駆け寄ってくる。
何のつもりなのか。キッドは怒りに目がくらみそうになった。
「やっと出てきやがったな・・ヤマネコ!覚悟しろ!!」
「き、キッド」
「お前に馴れ馴れしく呼ばれたく、ねぇ!!!」
呆然と自分の目の前に立っているヤマネコに切りかかる。隙がありすぎる。
とっさにかわすが、手応えはあった。
「ヤマネコ様!」
「セルジュ!!!」
『ヤマネコ』は切りつけられた腕を押さえて、呆然とキッドの方を見ていた。
その背後に仲間らしい奴らが駆け寄ってくる。じじいと、ツクヨミ・・。
(やっぱり居やがった・・ツクヨミの奴)
「はん!!今のは避けられたが、今度は本気で行くからな!」
ダガー構えなおす。今度こそ殺してやる。
「僕はヤマネコじゃない!」
「うるせぇ!!どこから見てもヤマネコだろうが!!」
「違うッ!」
何を判らないことを言うんだ?
(もし、罪逃れなら・・許さねぇ・・)
キッドはより一層眼差しをきつくした。炎のように熱い憎しみ。
睨みつけた『ヤマネコ』は顔をゆがめた。泣きそうな眼差し。
記憶にある『ヤマネコ』らしくもない仕草に、キッドは戸惑った。
憎いのに、憎いのに、どうしてそんなにらしくない目をして俺を見るんだ?
「くくく・・その女は確かにキッドだ。ただ、今は、お前がヤマネコで、私がセルジュだ」
「お、お前はっ!!・・・僕ーっ!!」
一瞬キッドはヤマネコの口から出た言葉にあっけにとられた。
ヤマネコはセルジュを狙っていた。
そのことを思い出してセルジュに向かって駆け出したヤマネコを斬りつける。
「セルジュには近寄らせねぇぞ!!!」
「キッド!そこをどいてくれ!!」
背後に飛んでかわされた。
「行かせねぇっ!」
「立場が変われば、人との関係も変わる・・その女にとっては、ルッカの仇はお前だと言うことだ」
「ヤマネコっ!!」
「ダークセルジュ・・とでも呼ぶんだな。今の私はセルジュだ。どこから見ても!」
「・・善良な天使みたいな精神だと・・エンジェルセルジュなのか!?」
「そうじゃなぁ・・そうなるんじゃろうなぁ・・」
「・・・・変か?」
「セルジュ、俺もそれは変だと思うぜ」
思わずキッドはそう言った。
ダークセルジュは腕を組みしばらくうなった。ダサイだろうか・・と。
「そうか・・まぁいい。猫でなければ猫でなければ!!!」
そう、ネコでなければ。名前などどうでも良いことだ。
ダークセルジュは辺りを見渡した。
キッドにヤマネコを呼び出させた理由はただ一つ、寝こみを襲われようとしていた『ヤマネコ』を助けるためだった。
中にひっそり進入したほうが早いのに、わざわざ爆音をたててしまったのも、そのせいだ。
・・・思わず何も考えずにやってしまったが。
(居た・・)
アカシア龍騎士4天王ゾア!!!
ゾアは騒ぎを見ていない・・小屋から出てラディウスやカーシュとともにそこに居ながら、じっと見ているのはただ一人の姿。
熱い眼差し。
「僕だって・・僕だって!こんな身体になってすごく苦労してるんだぞ!?」
ヤマネコ・・セルジュの声が聞こえるが、耳から入って通りぬけていくようだ。
「熱いし熱いし!服は熱いし!変態は居るし!!!」
ダークセルジュはヤマネコのその言葉にはっとした。
一瞬涌きあがる同情の念。
視線をヤマネコに返したときにはもう遅かった。
キッドが駆け出した。叫びすぎて息も絶え絶えになっているヤマネコに向かって。
ダガーがヤマネコの胸に突き刺さろうとした瞬間。
「ちっ!」
キッドが舌打ちをし、飛び下がる。
ヤマネコは助けられていた。
身体を持ち上げられて呆然としている。何が起こったのか判らなかったらしい。
ヤマネコは振り向く。
「ふぅはぁ・・」
ヤツの声がした。
ヤツは自分を仰ぎ見たヤマネコを見て更に鼻息を粗くした。
汚らわしい。
そのまま抱きしめようとでもするかのようなゾア。
恐怖に固まる『ヤマネコ』

「放せぇー!!!!!!」

自分が何をしたかよくおぼえていない。
身体が考えるよりも先に動いていた。
鎌を出現させ掴むと共にゾアに斬りかかる。
ゾアはヤマネコを放して、飛び下がる。
「え・・?え?」
背後で間抜けな声がした。元々は自分の声だが情けない。
「ちっ・・避けたか!!!」
(何があっても、お前だけはここで倒す!)
鎌を持ちなおすと、ゾアに振り下ろす。かわされれば、かわされた方向へ鎌を素早く反転させる。
「死ね!死ねしね!!!!」
「ふっほっ」
「このっ!痴漢めっ!!消えろっー!!!!」
がっちりとしたたくましい体のわりに、ゾアは素早かった。
鎌の一振り一振りに今までの恨みを込める。
「うごっ」
意外に素早いゾアだったが、しだいに追い詰められ木の幹に足を取られ倒れこんだ。
それを見逃すわけもなく、
「これで、終わりだぁー!!!!!!」
鎌をゾアの首元めがけて振り下ろす。
がきん!
けれど鎌はゾアには当たらなかった。
「な、なに!?」
「上じゃ!」
ラディウスの声のすぐ後、背後で悲鳴が上がった。
「うわぁ!!!!!!!!」
「く・・き、貴様ッ!!!」
ダークセルジュはそれを見るとますます顔を赤に染めて、怒り出した。
ヤマネコの肩におかれている手を見て叫ぶ
「私の身体に触れるな!!!!!!!!!」
「セルジュ・・お前そんな趣味が合ったのか・・・」
キッドは思わずつぶやいた。この事態は一体何だ?なんでセルジュが・・・?
彼女は呆然と突っ立って見入った。
「セルジュ!!!」
ダークセルジュは必死に呼びかけると、反転し駆け出した。
セルジュ・・ヤマネコがうなずき飛びこみ前転の動作にかかる。すばやい動きでヤマネコとゾアの間に飛びこむと、
「死ねっ!!!」
鎌を斜めに走らせる、確かな手応えにダークセルジュはニヤリと微笑んだ。
よろめいたゾアに前転から体制を整えたヤマネコがスワローで斬りつける。
ゾアはとうとう膝をついた。
(しぶといっ!)
「「ちっ、生きてるっ!」」
恨みのこもった声が重なる。

ダークセルジュはっとヤマネコを見た。目が合う。
通じ合う2人の思いは一つだった。
「・・・・」
「・・・・・」
見詰め合ったままうなずいた。
2人同時に武器を構えると、よろよろと立ちあがったゾアに向かって同時に地を蹴り軽やかに宙に舞った。
「「グライドフック!!!!!!!」」
駆け声と共に秒差で斬りつける。身が軽い分ダークセルジュの方が先に斬りつけ、その直後ヤマネコが斬りつける。
「がっは・・・」
ゾアは倒れた。
着地してポーズをつけたまま、もう一人の協力者を見る。
2人は同時に顔を上げ見詰め合うと、立ちあがり爽やかに微笑んだ。
「殺ったな!」
「うん!やっと!」
達成感が身体中を駆け巡る。あぁっやっと、やっと。
やっと・・恐怖から解放される。
2人は同時にそう思うと、安堵感から朗らかな笑みを浮かべる。

「セルジュ!お前何ヤマネコと戯れてるんだ!!!」
ダークセルジュはその声にはっとして、キッドを見た。
(あぁ・・忘れていたが・・)
ヤマネコを見ると、彼もそうだったと見えてお互い顔を見合わせる。
今更敵だ、と言ってどうこうしようという気にもならない。
その時頭上に大きな影さした。
「おい!乗れっ!!!」
(あれは・・・ファルガとか言ったか・・)
ダークセルジュもヤマネコも突然脈略もなく現れたファルガをぼんやりと見上げた。
そのせいか、一瞬対応が送れた。
「え?」
ヤマネコの気の抜けた声にダークセルジュは彼のほうを見た・・が、その姿はそこにはなく、
はっと上空を見れば、ゾアがヤマネコを横抱きにしてらっしゅ丸に飛び乗ったところであった。
「貴様ッ!まだ生きていたか!!!!!!おのれ!!!」
何ていう、回復力だ!化け物か!!!
「ヤマネコ!!今度会った時がお前の最後の日だ!首を洗ってまってろ!」
キッドが大声で叫ぶ。
さすがにドラゴンとでも言うのか、その姿は見る見るうちに小さくなって行った。

「・・・・・・」
ダークセルジュはその場に立ち尽くしたまま鎌を手が白くなるほど力強く握り締めた。
(やったと思ったのに・・ナゼだ!)

「お嬢様、どうして手を貸したりしたんですかっ」
「あら・・いけなかったかしら?カーシュ」
小屋の入り口近くで声がする。ダークセルジュは聞きとめて振りかえる。
「・・・お前がヤツを回復させたのか?」
低い、低い声だった。地獄のそこから響いてくるような恨みの声。
対してリデルは朗らかに答えた。
「えぇ。そうですわよ」
「てっめぇー!よくわかんねェけど、セルジュがあそこまで滅多滅多にして倒したヤツだぞ?せっかく倒したのに、何てことしやがる!」
「あら・・だって・・あんなに一途ですもの。私、情には弱くて、つい・・」
「ついじゃねぇー!」
「あら、怖い」
「うががー!!!セルジュ!こいつらどうするんだ?」
「・・・・・・・・捨てておけ」
「ヤマネコの仲間だぜ?」
「構わん」
ダークセルジュは一歩踏み出した。リデルを正面から睨みつける。
「今度・・私と・・の邪魔をしたら・・容赦はせん」
「大丈夫です。私がセルジュさんを守ってあげますから」
「ふん。・・行くぞ」
内心煮え繰り返るような心情だが、リデルだけは苦手だった。
関わり合いにならないほうが得策だ、とダークセルジュは思うときびすを返して歩き出した。
ヤマネコ・・セルジュの無事を祈りながら。

「おい、セルジュ・・一体あの男は何だ?」
「・・・痴漢だ」
「はぁ??」
ボートに乗りこみながら更に聞こうと質問を浴びせるが、よほど殺せなかったのが悔しかったと見えてテルミナに付くまで一言も言葉を発しなかった。
ボート中で真っ青になり、わなわなと振るえる『セルジュ』を彼女は心配そうに見ていた。
ダークセルジュはその視線には気づかずに、こみ上げる吐き気をこらえるのが精一杯でそれでもなお、『ヤマネコ』達の様子を覗き見るのを止めなかった。
その目は遠くを見ながら、決意を込めていた。
(必ず・・必ず・・)

時を同じくして部屋の中、起き上がれないほどのショックを受けて寝こむ「ヤマネコ」もまた、同じ気持ちで空に誓っていた。

((いつか、必ず・・))

<END>



後書き(01/5/30)

旧サイトきり番記念品です。この話は「騒動記8」とリンクしております。騒動記8を読んでからこちらを読まれると良いのかもしれない。
読んでくださってありがとうございましたv


【感想切望中(拍手)


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