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*この話はクロノクロスED「蛇骨幼稚園」を元に作ってあります*
クリスマス・パニック 第4話
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「・・・・それは・・・無駄だよ。ヤマネコ」
沈黙の後セルジュが妙に嬉しそうに言った。
「・・・何故だ」
「僕がすでに忍びこんで持ってきちゃってるから」
「・・・何?」
「あれには、君のだけじゃない。僕のもあるからね・・」
「・・・それはどこに?」
「とりあえず箱に入れて、着替えた場所に置いてきた」
「・・・焼き捨てろ」
「そうするつもり」
ゾアはヤマネコのコレクションを大事に宝箱入れに持っていた。
写真や抜け毛。使用済みのタオルなど、どこから入手したのかはわからないほど多量に持っていた。
それをずっと奪い返そうと何度も試みたが。ゾアの気配がある周辺に近寄れない。居ない間に近寄ろうとしても、外見が『ヤマネコ』である時に、部屋付近に近寄れば、何処からともなく現れる。
そうでなくても、植え付けられた恐怖心で上手く動けなくなるほどで。
セルジュは自分が元に戻った時に一度部屋へ忍びこむことに成功したが。
ゾア自身が肌身は成さずに持っていたために失敗に終わっていた。
だが、今。旅が終わった今ならば、部屋にあるに違いない、とセルジュはゾアのコレクションを奪還するついでに、ザッパへのツケを返しに来た時に、カーシュ達に出会いパーティに誘われたのだ。
セルジュにしてみれば、チャンス到来意外の何物でもなかった。
そしてプレゼントを買いに行くという名目で一人になったセルジュは、ゾアが準備にかかりっりで部屋に戻ってこないのも手伝って一晩中部屋を漁りまくり、多量の押収物を手に入れた。
戦利品は持って歩くと目立つので、箱に入れ服や武器と共に置いて来てある。
「・・・あ、あの、セル兄ちゃん・・」
今まで会話を見守っていたマルチュラがセルジュに顔向けた。セルジュは隣に立つマルチュラを「なんだい?」と言って見下ろした。
マルチュラは何故かもじもじとしていた。視線が落ちつきなく定まらない。
「・・・?」
「・・そ、その箱って・・赤い箱・・?」
「うん。そうだけど・・・って・・まさか・・」
「ご、ごめん!!てっきり、プレゼントだと思って!」
「・・・マルチュラ・・お前・・まさか・・」
今度はヤマネコが上ずった声を出す。セルジュもヤマネコもそっくり同じ顔に同じ顔色をしていた。
「・・・あそこに・・」
と、目を抑えながら指差した先は、クリスマスツリーの下で。沢山のプレゼントが積まれている。
「さぁー!お芝居はここまで!今、この時間からはプレゼント交換ゲームをはじめるわよ」
リデルがいつの間にかに、ヤマネコの掴み技から抜けだし。マイクを手に立っていた。
セルジュもヤマネコも驚いて呆然としている。
「説明は俺がやります。参加者はプレゼントを持参した人達のみです。その人達はクリスマスツーリーの周りに集まってください」
カーシュが大きな耳を揺らしながら、ツリー方向に手を向けながら言う。
その背中には何時の間にやら子供の字で「お触り厳禁」と書かれた張り紙が貼ってあるのに気づいていなかった。
ぞろぞろと、ユニークな装いの人々が前に出てくる。ちらほら見えるのは、かっての仲間たち・・のコスプレ。仲間たちも居るが。
セルジュはそれをぽけーと見ていたが、ヤマネコの「しまった!!!私は何も用意しておらぬ!」という声に我に返った。
「本当に!?なんで用意してこなかったんだよ!」
「金がないからだ!!」
ぼったぐり事件の後、ヤマネコは極端な極貧で、モンスターを倒しながら小金を稼ぐ日々であった。
「っっっバカ!!!どうするんだよ!!」
ゲームが何かは判らないが、手に入るかもしれない。奪い取るにも一発で自分のかどうか見ぬけるか判らない。
「・・・リボン付けちゃった。緑色の・・」
マルチュラの声が更に2人を追い詰める。同じ装いのプレゼントは山ほどある。
「・・・じ、次元の狭間に何かあるかもしれない・・待ってろ」
ヤマネコは目を閉じると瞑想をはじめた。
目の前の次元が開いて落ちてきたのは・・・ヤマネコが被っていた帽子。
「・・・・こ、これでは奴が喜んでしまう!」
更に目を閉じ、集中をするが落ちてくるのは『ヤマネコの着ていたマント』『靴』などで。他のものは何一つ落ちてこようとしなかった。
「・・・仕方ないよ。それで・・・行こう」
「・・・・敵に塩を送ることになるんだぞ!?」
「・・・意味はあってるけど・・・意味合いは違うような・・」
「そんなものはどうでも良い!!!・・・セルジュ」
ヤマネコは手に持った帽子意外を次元の狭間に送り返すと、真剣なまなざしでセルジュを見つめた。
セルジュは頷くと、マルチュラに「リボンと包装してくれないかな?」と帽子を指差して頼んだ。勝手にしてしまった事で怒られるかとびくびくしていたマルチュラは、その願いに笑顔で答え、走って行った。

「さて、集まった皆さんはツリーの方を向いて手を繋いで円陣になってください」
ゲームの内容はありふれたものであった。リデルの主催したゲームにしては。
円陣になり、「ジングルベル」の音楽に合わせプレゼントをまわしていく。音楽が止まった時に手に持っていたプレゼントがその人へのプレゼントになる・・・というものだ。
セルジュとヤマネコは隣り合い手を繋いだ。丁度木を挟んだ向かい側にママチャのコスプレをしたオーチャと手を繋いだゾアが居た。
リデルのコスプレをほぼ完璧にこなしているセルジュではなく、『セルジュのコスプレ』を完璧にこなしているヤマネコを見ているようだ。
ヤマネコは目をそらした。その方向を見るだけで、鳥肌が髪がざわだつ気がするほどに嫌だったから。
ほどなくして、完璧な円ができると手を離し、サンタの格好の蛇骨大佐からプレゼントを渡された。
「それでは始めます〜!一人ずつプレゼントは持ちましたね?ではスタート!」
『ジングルベル』が鳴り響く。
子供達が歌い出す。
場はクリスマスパーティーらしい盛り上がり。誰もが笑顔を浮かべていた。
その中で険しい顔をして、プレゼントを凝視する四人が居た。
セルジュ、ヤマネコ、鼻輪の変わりのプレゼントを狙うコルチャに、ゾア。
「・・・・・セルジュ・・」
「何・・」
「・・・どれだか判るか?」
「・・・全然だよ・・どれも同じみたいな感じだしね」
「・・・・・あいつが・・・」
「嗅ぎつけたのかな。犬よりも鼻が良さそうだしね・・・」
セルジュもゾアを見ていた。ゾアは『猫がらみ』の分野には全て、人間離れした動きを見せる。
敏感な鼻か、はて又勘か・・何かに気づいて何かを必死に狙っているのは明らかだ。
曲も終わりに近づいた時だった。
「マズイ!」
ゾアが動きを見せた。プレゼントを廻そうとしないのだ。
足元にさりげなく落としている。
「・・・・・あれか・・?」
「あれみたいだね・・」
ゾアは2個プレゼントを勝手に足留していた。
恐らくは一個はセルジュの奪ったゾアのコレクション。もう一つはヤマネコが先ほど出した帽子であろう。
音楽が止まり、皆は「わー!」と歓声を上げる。
子供達は「ハッピーメリークリスマス〜!」と言合っている。
誰もが手元に止まったプレゼントを嬉しそうに開封する中、セルジュとヤマネコはゾアの元へ走り出した。

「それを寄越せ!!!」
「それを返せ!!!!」
セルジュとヤマネコの声が重なる。同じ声なだけに、2重音声のようだ。
「・・・・」
ゾアはそれをひしっと両手に抱きしめる。
3人の間にだけ緊張感が漂い始める。楽しそうな人々も、それを何気なくさっして離れて行き、やがてツリーの周辺には人が居なくなった。ぽっかりと空間が空く。
セルジュもヤマネコも必死であった。
自分の使ったものを、さんざん悩まされた元凶のコレクションにされているのだ。2人の思いは一つ「気色悪い」それに尽きる。
「問答無用だな」
「そうだね」
以前にも結託してゾアと戦ったが、与えた傷は浅かったのかすぐに復活された苦い思い出がある。今度は確実にしとめなければっ!
「・・・ククク・・それはどうかな」
低く抑えた声が聞こえてきた。声の主を探せばマイクを握り楽しそうに微笑む『ダークセルジュ』のコスプレのリデルその人であった。
「何がおかしい」
ヤマネコが不快そうに言う。
「お忘れかな?このパーティーはコスプレパーティー。武器もエレメントも揃えている、な」
「・・・ヤマネコ、マズイよ・・」
「・・私は『セルジュ』の武器にエレメント、セルジュは・・」
「リデルさんの武器とエレメントしか持ってない・・」
「何故!!もっと他のキャラにしておかないんだ!セルジュ!」
「きゃ、キャラって言ってもっ!!!」
「質より量の居るだけ無駄な仲間だろうとも!!!もっと強いキャラも居ただろう!?」
ひどい言いぐさである。
セルジュはいつもの調子を失い、下を俯きながら小声でごにょごにょと言い訳していた。
小さくて聞こえずらいが、「だって、リデルさん白エレメントで丁度良いし、髪の色も同じっぽいし、身長も近いし・・・」更に小さな声で「胸も小さいからアンパンでも入れとけば済むし、体格も似てるし・・」と余計なことまで言っている。
ヤマネコは慌てた。
リデルまでも敵に廻せば勝ち目はない。肩を掴み揺さぶり、正気に返らせる。
「とりあえず、ロッドで弱攻撃でもしてパワーレベルを上げろ。エリアを白で染めてセインツでも召喚しろ!」
「う、うん・・・」
幸いかな。白エレメントは2人とも豊富に装備している。ヤマネコは反対属性になるので、使っても威力はセルジュに及ばないが基本的な魔力の高さでそれなりには使える。
2人は結託し、確認し合うと武器を構えた。

ゾアは戸惑いをかくせなかった。過って愛すべき「ヤマネコ」であった者たちが2人、殺気を放ちながら近づいてくる。一度愛着を持ったものを攻撃など出来ない。
もしかすれば、また「ヤマネコ」に戻るかもしれない可能性も捨て難い。
かと言って、自分の足もとのプレゼントは渡せない。
「どりゃー!」
と、怒声を上げながら切りかかってきたのはリデルに扮したセルジュ。
杖はか細く、ゾアの屈強な身体に当ると折れそうな具合に曲がる。セルジュはそれを見て舌打ちしたい気分であった。ルチアナとマルチュラに渡されたロッドは、リデルの初期装備品、普通の「ロッド」だという事に今更気が付いた。
セルジュの力に対してロッドが耐え切れそうにない。セルジュは力をセーブした。
セルジュの攻撃の後、慣れない武器を持ってヤマネコが斬りかかってきた。スワローはセルジュがいとも簡単に操るので一見簡単そうに見えて難しい。
見かけはともかく、なかなか重く。ヤマネコのように鎌を得意とする者には逆に扱い難い武器である。
「ふんぬ〜!」
「な!」
ゾアは黙って斬りつけられるような男ではなかった。
外見が『ヤマネコ』でない分容赦はない。(それでも元『ヤマネコ』なので手加減はしているようだが)振り下ろされた刃を掴み、自分のほうに引き寄せた。
ヤマネコはかっての恐怖体験を思いだし、悲鳴を思わず上げる。
「ヤマネコ!!!」
そのまま、武器を手放してしまい、一瞬呆けた隙にゾアがヤマネコの細い首に腕を巻きつけた。
「ぐっ・・・」
羽交い締めにすると、ヤマネコは更に顔を青くしていく。身体は変われど受けた精神打撃は忘れない。条件反射のように、身動きが出来なくなる。
「ヤマネコを離せ!」
セルジュが叫ぶと名前に反応したゾアは身をくねらせる。更に締めに力がこもり、ヤマネコは苦痛のうめき声を上げる。
「っぅ〜〜〜」
「セルジュ・・いや、『リデル』。その名は奴には危険だぞ?」
セルジュに向かい、あくまで『ヤマネコ』を演じ通すつもりのリデルがステージから楽しそうに言う。
「諦めて『ダークセルジュ』と言ったらどうだ?」
「いやだ!!!」
「お仲間が苦しむだけだぞ?」
「いやだね!!!そんな恥ずかしい名前で呼ぶものか!確かに視覚的には僕がゾアに抱き付かれているみたいで嫌だけどさ、僕じゃないから平気だよ」
「ひどいっ!」
ヤマネコのくぐもった声が聞こえるが、セルジュはすっぱり無視をした。
確かに大切な「同士」だが、それでも自分の信念を曲げる気にはならない。
街をあるけば、「あ!ダークセルジュだ!」と指差される自分の気持ちになってみろ!嫌だろう!というのが、セルジュの弁だ。
「ひ、人で・・」
なし、と言いたいが息が苦しい。
ヤマネコは霞む視界に移るセルジュを見た。
セルジュは「ヒトデ」と言われ「ヒトデのコスプレイヤーでも居るのかな?」とボケを炸裂させ辺りを見渡していた。
思わず涙が出そうになったヤマネコの霞む視界に何かが移る。
(・・・・・・糸?)
細い糸であった。釣り糸のような・・・。それはヒュ、と投げつけられ、ヤマネコの近くにあるゾアの『クリスマスプレゼント』に引っかかる。
それは、もちろんセルジュの奪取したゾアのコレクションと、ヤマネコの帽子の入った包みなのだが。
2本の糸は器用にリボンの結び目に引っかかると、一気に引かれ持ちあがる。

「「「あ」」」

リデル、セルジュ、ゾアの声が見事にハモル。
そして視線は一点に集まった。テーブルの上に立つコルチャであった。つり竿を2本器用に持ち、釣上げたプレゼントを見て嬉しそうに笑った。ゾアのコレクションの入った箱はかなり重いのだが、「ビィチボゥイ」や「三魔騎士」すら釣れるコルチャに重さなどないにも等しいらしい。
「やったぜ!!!キッド!おいらの愛の詰まったプレゼント貰ってくれ!」
実はコルチャ、随分前から狙っていたのだ。
綺麗に包装された大きな箱に(中身ゾアのコレクション)。
それをゾアが卑怯な手を使い奪い、セルジュやリデル(未だにセルジュのコスプレだと気づいていない)が奪い返そうと躍起になっていたプレゼント。
中身はきっと凄いものだ!とコルチャは確信し横取りをする気配をうかがっていた。
コルチャにしてみれば『セルジュ』が捕まった時ほどチャンスはなかった。
心の中で「悪いな!セルジュ、オイラが頂くぜ!かー!オイラってキッドと同じラジカルドリーマー名乗れるんじゃねぇの?そしたら・・め、夫婦盗賊!?うわー!照れる〜!!!」という風に思っていた。
コルチャはそのプレゼントを両腕に抱えると、テーブルを飛び降りキッドの元へ走って行った。
「キッドォォォォォ!!!オイラの愛を受け取ってくれ!!!」
壁に寄りかかり傍観していたキッドの元へコルチャは走り寄った。その背後から我に返ったセルジュとゾアが追いかけてくる。
「・・・また来たのかよ」
お前も飽きねぇなー・・とため息をつくレナ姿のキッドにコルチャは見惚れる。
(や、やっぱキッドってす・・すっげ・・綺麗だな〜)
『これがオイラの嫁さんかー』コルチャは鼻の下を伸ばしつつ、持っていたプレゼントをキッドに渡す。
内心その顔に『気色悪ぃ』と言いながら、貰うのはキライじゃないキッドは、リボンをゆっくりとほどいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「な!どうだ!?すげーだろ!?」
「・・・・”すげーぇ”なぁ・・」
キッドは箱の中身を見たまま身動きしない。コルチャはそれを感動のあまりにと勘違いをし、その後の展開に夢を膨らませる。
(『コルチャ・・私こんな綺麗なもの貰ったのは始めてよ・・好き・・』とかとかとか!!!顔を赤く染めながら俯きかげんに恥ずかしそうに言うのがポイント!!!くぅ〜〜〜!!!キッド綺麗だぜー!っーか可愛いぜ〜!!!!)
コルチャの妄想は更に続く。

「コルチャ」

キッドの声に反応し顔を見れば!赤く染まっている!!!
先ほどは失敗したが、今回はありがとうのチューも夢じゃないかもしれない!コルチャはそんな期待を込めてキッドを見つめる。
「・・・これがお前の気持ちか?」
「おぉ!!!おいらの愛が詰まってるぜ!」
次に来るのはチューか!?それとも抱きつきか!コルチャは更に期待をするが。
「て・・てめぇ・・・」
ドコォ!!!!とコルチャに箱がと中身が直撃する。その重みに耐えきれずに倒れこむ。その目に移ったのは・・・・。
ヤマネコの写真であった。
「これが・・これがてめーの『愛』か!!!」
「え!?ま、間違い!」
「何が間違いだ!!!てめーはそこの仮面野郎と同類か!どおりでそのふんどしが色違いのお揃いだと思ったぜ!!」
「ペアルックかぁ〜やるねぇ・・コルチャ」
「・・くくく、ゾアとペアルックか・・」
まだ成りきっているリデルとセルジュの声が更にコルチャにダメージを与える。
「もう一遍月までぶっ飛ばす!!!!」
キッド、コルチャに脳天に痛恨の一撃!!!コルチャ他界・・・の1歩手前。

その後怒り狂ったキッドは更にヒートをゾアのコレクション並びに帽子に向け放ち、セルジュとヤマネコの願いをかなえた。ゾアは悲痛にも泣き叫び、カーシュはそれを慰めるためにゾアと共に退場して行った。
ヤマネコは、ゾアに羽交い締めされたショックで腰が抜け、ツクヨミとキッドに両脇を支えられ退場していった。
その後もパーティーは続行され、皆が皆楽しいクリスマスを過ごしていた。騒動は終わりかと安堵した蛇骨大佐を裏切るように、新たな嵐は的確に近づいていた。
「セルジュ〜〜!!!どこよー!」
ラディウス村長のコスプレをしたレナが、会場に現れたのはイブからクリスマス当日になってからであった。

翌日、蛇骨バーと蛇骨幼稚園が休みなった理由は関係者一同が口をつぐんだために永遠の謎のままであった。
真実はパーティーに参加した者たちのみが知っている。

<完>


【感想切望中(拍手)


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