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*この話はクロノクロスED「蛇骨幼稚園」を元に作ってあります*
クリスマス・パニック 第3話

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12月24日、クリスマスイブ。
子供達は皆可愛らしい格好をしていた。羽の生えた天使の白いふわふわとした服装。
ルチアナ達がほぼ夜なべをして必死に作ったものであった。
2階のホールは、カラフルなリボンで飾られ、赤いテーブルクロスの上にはオーチャの渾身の料理が並べられ、中央には大きなツリーがあり、わたで作った雪や綺麗な鈴、リボンで飾り付けられていた。
頂点に輝く星がライトに反射してキラリと光る。
クリスマスツリーの飾りの中に、七夕で見られる短冊がぶら下がっているのがミスマッチだが・・・誰もそのことに触れる物は居なかった。
ぶら下げたのは、リデルだからであろう。
「セルジュさん達どこまで行ったのかしらね?」
「・・・・お嬢様・・」
「何。小さくなってるの。似合うわよ、その姿。ねぇ?ダリオ」
カーシュはリデルの傍らで身体を萎縮させるように立っていた。頭には大きな黒いふさふさとしたウザギの耳。長い髪はポニーテールに編んでいる。服装で問題の部分(笑)は長い巻き布で上手に隠している。黒いレオタードに、白い布なのでそれもまるで最初からデザインされていたかのように違和感を感じない。
「そうだな。色っぽいぞ〜ははは!」
ほがらかに笑うダリオを射殺すような殺意の宿る目で睨みつけた。
リデルに言われる分は諦めがつくが、ダリオに言われると無性に腹が立つ。
そのダリオの服装はツクヨミの服装であった。
赤いぴっちりした服装に、濃い化粧。ツクヨミだからこそ可愛く見えたのだと、カーシュは心の底から思った。
「お前に言われたくねぇよ」
「ははは!俺の色っぽさには負けるだろ」
「・・・リデルお嬢様は・・似合いますね・・」
リデルの格好はダークセルジュのコスプレだ。長い髪は後ろでお下げに編み、上手に隠している。髪の色合いがセルジュの髪の色合いと似ているせいか、違和感はない。
それどころか似合いすぎて怖いくらいだ。
「そう?・・言葉使いも変えなきゃね。・・ごほん!・・くくく、当然だ」
ガラリと顔つきも声音も変えたリデルは役になりきっている。
「・・・ぞ、ゾアやグレンは・・・?」
「2人なら・・・あ、居たぞ」
ダリオが指差した方向は出入り口で、入ってきたのは体格や髪色でゾアとグレンだと判ったが・・・・・・・・。
ゾアはヤマネコの服装をしていた。
ご丁寧に仮面の上に少し大きめの猫耳までつけている。
自分の姿にご満悦らしい。顔こそは見えないで機嫌は大変良いようだ。
当初、ヤマネコのコスプレをセルジュにしようと、していたが。セルジュがヤマネコになればゾアの暴走は目に見えて予想しやすい。
セルジュが黙っているはずもないし、ゾアが大人しく見過ごすとも思えない。
かと言って、セルジュやゾア以外でヤマネコのコスプレをする勇気のある人間は居るわけもなく、ゾア本人にヤマネコ役を押し付けられていた。
対してグレンはトナカイの格好をしていて、蛇骨大佐のサンタさんと並ぶいたって普通の格好であった。トナカイの鼻が真っ赤なのは、クリスマスソングに合わせた演出だろう。
「・・・・くそっ、グレンの奴・・・むががが」
自分がその役をやりたかった!と力拳を握って悔しがるカーシュ。
確かに彼一人、浮いていた。

「ここか」
「お〜〜扉から飾りがついてるぜ。一般客も来てるようだしな」
キッドが蛇骨館の扉についた、可愛らしい天使の人形をつん、と指で触る。
扉の天使の人形の下には「一般のお客様へ。パーティ参加代金として寄付金をお願いします」と書かれてある。今回はぼったぐりはないらしい。
「ね、ヤマネコ様・・・。この格好は・・あたい、ヤだよ」
ツクヨミが恥ずかしそうに俯きながら言う。彼女は化粧はそのままに、大きなピンク色の着ぐるみを着込んでいた。旗から見ていても愛らしい。
・・・ポシュルと書いたボードを首に下げていた。
俯くとたれん、とふさふさした耳がたれる。
「・・そう言うな、ツクヨミ。可愛いと思うが」
「俺!俺の格好はどうだ!似合うだろ」
キッドの服装はレナの服装そのままであった。いつもは高く結い上げている髪の毛を解いているせいか、印象ががらりと違う。どことなく柔らかい印象がある。
「しかし・・このスカート。動き難いぜ」
足に纏わりつく布が邪魔らしく、時々手で持ち上げている。
「・・・キッド。武器も持って居ろ。それらしくな」
「おぅ!セルジュ・・・しかしセルジュ。お前なんでもとの服装を着てるんだ?」
ヤマネコから武器である大きな杓文字を受け取りながら、キッドは首をかしげた。
ヤマネコはセルジュの服装をしていた。セルジュからその身体を奪い取った時に着ていた服をどこかに取っていたらしい。サイズはもちろんぴったりだ。
靴下もしっかりと三つ折りしている。細かいところも抑えて居るところが、ヤマネコの性格をうかがわせる。
「・・・在ったからだ。それより、武器が間に合わなくてブロンズスワローなのがな・・」
ヤマネコも武器を持っている。愛用の鎌は、泊まっている宿舎に置いてきた。本当は『グランドリーム』が欲しかったが、仕方がない。道具もない。
「それからツクヨミ。ちゃんと語尾に『でしゅる〜』と付けろ」
「えっ!?あたいヤダヨ〜〜っ」
「ダメだ。何事もちゃんとしなくてはダメだ。私もやるから、お前もやれ」
「俺もか?レナか・・・確かあいつ・・こんなだっけ。ごほん」
キッドは咳払いをすると「さぁ、行きましょう、セルジュ」と成り切っていった。キッドもなかなかの演技派らしい。
「ふん・・・。やるじゃないか。・・よし、行こう。ポシュル、レナ」
ヤマネコは顔も同じなだけに違和感を感じさせない。その実力は身体を入れ替えたばかりの演技で証明されている。
「・・・待つでしゅる〜・・・うぅぅ」
ツクヨミだけが嫌そうに続いた。

中に入れば、パーティが丁度始まったところらしく。明かりは消され、一段高くある台座(実は仕掛けエレベーター)にサンタの格好の蛇骨大佐が子供達に、そして来客者達に挨拶をして居る所だった。
蛇骨大佐のチャームポイントとも言うべき白いひげが、サンタの衣装にばっちりと似合っている。子供達も「サンタセンセー!」と可愛い歓声を上げている。
蛇骨大佐の両隣には、トナカイのグレンとバニーガールのカーシュが居た。グレンは平然と立っていたが、カーシュは居心地の悪さに汗をかいて立っている。
ふと、カーシュの目が入り口から入ってきた3人に目を止めた。1人はセルジュ、金髪のレナ、あと一人は・・・。
(誰だ?首に何かには・・・ポシュルだぁ!?あぁ、ポシュルの格好をしてるのか・・)
カーシュはそれを目でリデルに伝えた。リデルはうなずくと、そっと暗がりを移動して行く。リデルの背後をツクヨミ姿のダリオがついていくせいで、こっそりとした行動も目立つ事この上もない。
「おい」
リデルが低い声を出し声をかけた。役になりきっている。
セルジュ姿のヤマネコは、自分の姿を真似たリデルを見て眉をひそめた。
(何故、この女が私の格好をしてるんだ!!!)
リデルは苦手だった。
ゾアに迫られて逃げ惑う情けない姿をいつもどこかで見られていた。リデルの眼差しが苦手だった。
「・・何?」
それでもヤマネコは演技を忘れない。自分はここへ、まんまと罠にかけられて、大金をぼったぐられた恨みを晴らすべくやってきたのだから。
ここでの自分はセルジュなんだ、と自己暗示をかける。
「待っていたぞ、セルジュ・・・?こいつらは誰だ?」
リデルは目線を傍らに立つレナの服装のキッドと、ポシュルのツクヨミにやった。誰だがわからなかったらしい。
「レナとポシュルだよ。やだなぁ、もう忘れたのかい?」
「・・・・ほぅ。そう来るか・・・それじゃセルジュ、お前の衣装は用意してある。こっちへ来い」
「僕は必要ないよ。このままで十分だからね」
「?あなたの姿はそのままじゃないの」
「・・・・」
(ここで断れば、事を起す前に騒動になるな)
「あたい達、一生懸命準備したんだよ、セルジュv」
と猫なで声で言ったのはツクヨミ姿のダリオだ。
ツクヨミのように、話しながらもゆらゆらと揺れているため、気色悪さを更に与える。ヤマネコはその姿を見て、一瞬ポシュル姿のツクヨミを振り向いた。
彼女は涙目でダリオを睨みつけている。
キッドは面白そうにそれを眺めているだけで何も言わない。
「・・・・そうだね。じゃぁ、行くよ」
どうせ、まともな服じゃないんだろうな・・・とヤマネコは心の中で呟いた。キッドとツクヨミをその場においてリデル達に付いていく。

「ルチアナ」
リデル達は2階の衣装部屋に割り当てている部屋に入る。中ではルチアナが持ち出してきた試験管で何かを実験していた。リデルの呼び声で我に返ると顔を向けた。
「あら、よくお似合いですこと」
ルチアナの格好は、メイド服を着たメイドらしい。黒いふわりとした短目のスカートに、白いエプロン。長い髪を背中にたらしていて頭には小さな白いリボンを結んでいる。
「ふん、当然だ。それよりセルジュを連れて来たんだが・・服は出来てる?」
「え?」
ルチアナはリデルの背後に居るセルジュをどこか慌てたように見た。リデルはそれを見て眉根を寄せる。
「・・・セル君なら、さっき着替えて出て行かれたはずでは・・・」
「え?」
「・・・くくく・・、この姿ならば間違えるのも仕方がないな、リデル?」
ヤマネコはセルジュの明るめの服装には似合わない顔をし、笑った。
邪悪さを感じさせる笑い。
リデルも、ルチアナも覚えの在る笑いだった。
「まさか、お前が俺の格好をしているとはな。光栄だよ」
「・・・あなた、ダークセルジュね?」
「このパーティーの主催者はお前だろう?私はお望みどおりコスプレとやらをしてきてやった客だ」
「・・・客?」
「あぁ。もう少し楽しんでからと思ったが・・気が変わった。早速この前のお返しをさせてもらおうかな」
「この前?」
何の話だが判っていないリデルに、ルチアナが「お嬢様お嬢様」と呼びながら近寄る。耳元で何かをささやいた。
「え!?ダークセルジュから全財産巻き上げた!?」
「お、お嬢様!!!」
どうやらリデルは知らなかったらしい。大声で聞かされた事実につい叫んでしまったリデルをすごい形相をして睨みつけるヤマネコは、リデルの腕を掴み捻り上げた。
「つぅ!」
「さぁ、楽しい予行の始まりだ。・・・大方、コスプレパーティーなどして、演劇でもやるつもりだったのだろう?」
「さぁ・・どうかしら」
「・・ダークセルジュを捕らえたセルジュか、くくく・・・面白い余興だと思わないか?」
ヤマネコはリデルを掴みあげたまま、会場に戻る。ルチアナはリデルを助けようとしたが、武器を装備しておらず、そのまま悔しげに部屋へ走り戻って行った。


パーティー会場は賑わっていた。それぞれ自由な格好をし、立ち話しをしたり、テーブルの食べ物を食べたりと楽しんでいる。子供達は園長先生のサンタに群がり、グレンも子供達と楽しそうにしていた。
カーシュはバニーガールの格好で、飲み物を運ぶ役目をしている。誰もが楽しんでいた、その時。
突然明かりが消され、ライトがステージを照らした。

「何だ?」
「何が始まるのーサンタせんせー」
子供達が興味津々とキラキラと輝く目でステージを見つめ、蛇骨大佐に質問している。
蛇骨大佐は事前にコスプレを使ったパフォーマンスを行うと娘のリデルから聞いていたので、それだと思い優しい声で「リデル先生によるお芝居だよ」とささやいた。
その時ステージに人が出てきた。リデル扮したダークセルジュを掴んだままの、外見セルジュなヤマネコであった。
「さぁ、ダークセルジュ!観念するんだ!」
ヤマネコは一旦観衆を見渡し、ニヤリと笑むと、大きな声で言った。セルジュがダークセルジュを追い詰めたシチュエーションらしい。
「お嬢様!?」
カーシュが呆然と飲み物を持ったまま、叫ぶ。その横をメイド服のルチアナと、キッドの扮装をしたマルチャラが駈け付けた。
そのままステージ前まで行き、武器をヤマネコに向けた。
「お嬢様を離しなさい!」
「お嬢様を離せ!」
それを見て、面白そうに笑ったヤマネコは鼻で笑うと
「・・・お嬢様?違うだろう?ダークセルジュだろう?」

「違う!!!その名で呼ぶな!!!」

突然声が割って入った。その声は・・。
「セルジュ!」
「小僧!」
「セル兄ちゃん」
セルジュは、長いウィングを付け長めのスカートを掴みながらルチアナ達の傍らまで走って来た。頭につけたヘビに飾りが揺れる。
・・・セルジュはリデルの扮装をしていた。
「・・似合うね、セルジュ」
セルジュを演じているヤマネコは言ったが。その場に居た誰もが思うことであった。
元々細身の上に、身長もリデルより一センチ低いだけ、髪の色も似ているせいか、かつらをつければ違和感はない。
「・・・その胸は・・」
カーシュが呆然と呟いた。現れたリデルの格好をしたセルジュの胸は膨らんでいた。
「あぁ。もちろんあんパンだよ!」
セルジュはカーシュの問いに答えると、リデルを掴んだままの自分の姿そっくりのヤマネコを睨みつけた。
「”ダークセルジュ”なんて呼び名で呼ぶのは、やめてくれない?」
「嫌なのか?」
「イヤだってもんじゃないね!!!恥だよ!」
「・・・”リデルさん”、それでも世間はその名で呼ぶよ」
「・・・・”セルジュさん”、それでもその名は正しくない。外見は似ててもまったく違う他人なのですから」
掴まれたままのリデルは、なぜか頷いている。どうやら劇を続けろ、と言うものらしい。
マルチュラとルチアナは会話に入る隙間が見出せずに、2人の会話の押収をはらはらとしながら見守っていた。
「ヤマネコ様ァ〜!」
と、ステージに乱入したしたのはツクヨミの扮装をしたダリオであった。きっちり語尾を延ばしているが、微妙に違う。
「セルジュ、ヤマネコ様を放さないと月に変わっておしおきヨv」
微妙どころがすごく違う。
おまけにどこで見たのか戦闘態勢だけはしっかり合っていた。
「違う!!!!あたいの名台詞は「月までぶっ飛ばすよ」だよ〜!!!・・でしゅるー!」
ステージの逆の方からポシュルの着ぐるみを着たツクヨミが我慢できずに出てきた。
真中の2人は見ずに、ダリオに指を付きつける。
「もう許さないよ〜!でしゅるー!」
珍しく怒り心頭らしい、彼女はそのまま飛びかかった。
武器も扮装に合わせたために使える攻撃は限られる。
着ぐるみを着て命中力の格段に落ちたツクヨミの攻撃を難無くかわすダリオ。
彼女はそのまま壁に激突した。
「うきゅ〜でしゅる・・」
ツクヨミ、離脱。
「何だよ・・じゃねぇ、何よ。ポシュルったらダラしないんだから!」
床にのびたツクヨミの傍らに出現したのはレナに扮装したキッドであった。彼女は邪魔な髪の毛を掻き揚げると、キッドに扮したマルチュラを見た。
「はん!お子様には数年早い格好だったな」
「な、何をォ〜っ」
「出るとこ出てないと、その服は着こなせないんだよ」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
「んだ?やるのか?」
マルチュラが顔を真っ赤にして(服が服なだけに恥ずかしかったらしい)武器を取り出した。武器もそろえたのか、いつもの糸ではなくタガー。
そのままキッドに向かっていくが、ひらりとレナ姿のキッドにかわされる。
「おいおい。俺はそんな、はずし方しないぜ?」
キッドは鼻で笑う。そこへ背後から誰かが近寄り腕を掴まれた。
「な!?」
「き、キッドだろ!?」
背後から忍び寄ったのはコルチャであった。彼は彼のままであった。
レナに殴られ今まで気絶していたらしい。
鼻血を出していたのか、鼻から口の周りに血がこびりついている。乾いているがそれが更に、不気味に指せている。
「うげっ!!!は、離せー!!!」
キッドは掴まれた左手を降りまわして解こうとするが、コルチャは『やっと見つけた』と言う面持ちを浮かべ、執念で離しそうにない。
「お、オイラ、ずっとあんたを探してたんだ!!」
「な・・」
「言っただろう?嫁にしてくれって!」

「「「「はぁ!?」」」

セルジュ、ヤマネコ、ルチアナから奇妙な声が上がり揃う。普通は逆では?と声音は語っていた。
「あ、え?あ、ちょっと違うか。嫁になってくれ、だ」
コルチャも気が付いたのか、慌てて訂正をする。
そして気を取りなおして話し始めた。
「あんた言っただろう?考えておくって。けど、あんた突然変な服着た野郎についていって・・・・」
「・・・変な格好とは、私のことか?」
ヤマネコは何も言ってない。
コルチャの言葉に顔をしかめているが・・・言葉を発したのはヤマネコに掴まれたままのリデルであった。
彼女はこのステージを降りるまでは”ダークセルジュ”を演じるつもりらしい。
「あんた・・?何かちょっと変わったな。どっちかと言うと、そこの悪趣味靴下野郎に似てるけど」
「・・・コルチャさん?それはどういう意味かしら?」
今度はリデルに扮したセルジュが反応した。彼の中にはキッドよりも『こいつ(コルチャ)に言われたくない!』という思いが大部分を占めていた。
「あ?・・・リデルさんだっけ?あんたまでセルジュの野郎に騙されてるのかよ」
「騙されるって?」
「あいつは一見爽やかな笑顔だけど、腹の下ではどんなこと考えてるか判ったもんじゃないぞ!絶対頭の中ピンク色だって!!」
「・・・・・。そんな事ないです。セルジュさんは『優しくって良い人』よ」
「はん!どんなもんだか!そんな奴なら、旅の途中に女の子ばかりに話しかけないし、メンバーも女の子で揃えたりはしないだろ!」
コルチャの頭の中には、キッドを挟んでの恋敵としてのフェルターが常にかかっていて。
セルジュは闘うメンバーをその時のエレメント属性や、戦闘能力で決めていたのを女の子ばかりだと思いこんでいた。
実際にはコルチャを参入させた当時のメンバーが女の子ばかりだったのが原因なのだが。
「・・・・コルチャ・・」
セルジュは一瞬演技を忘れていた。密かに握った拳が震えている。
「おい!いい加減離せ!!!」
キッドがもがく声で、コルチャはキッドに目を戻した。
いつもと違う服装のキッドを見て、頬は垂れ下がり、目も垂れ下がり。
赤い顔を更に赤く染めた。
「・・・ずっと心配してたんだ。キッド」
至極真面目に言うが、だらしのない顔に乾いてパキパキの鼻血付だと至極不真面目に見えて成らない。
「うげ」
「・・・お、オイラ。あんたにプレゼント用意してあるんだ」
「判った!貰うからこの手を離せ!(怖すぎる!気色悪ぃ!)」
キッドは叫ぶように良い、逃げないから、と言ってようやく離してもらった。
「こ、これ・・・貰ってくれ!」
「あ、あぁ・・・綺麗な箱だな」
コルチャが出したのは(どこから出したかは・・・語れない・・恐ろしくて)赤い包みに緑色のリボンの小さな箱であった。
キッドはリボンの部分をつまむように持ち上げ、とりあえず箱を誉めてみたらしい。
(・・・微妙に暖かいのが・・・・い、嫌過ぎるっ)
「空けてくれよ、キッド」
コルチャの熱い眼差しに絶えきれずにキッドは目をそらし、リボンをおそるおそるほどいていく。包みを床に落とせば、中から指輪ケースが出てきた。生温かい。
「・・・・。コレ・・・」
キッドは中身を見て複雑な声を上げた。
「あんたみたいだなって思ってさ・・・照れるな・・そんなに高くないんだぜ?とりあえず一万ギルはしたけど、何ちょっと頑張って働けばこのくらい。どっかの家事手伝いには一生無理だけどな!ははは・・ってキッド?嬉しくて震えてるのか?」
キッドは中身を見たまま呆然と立ち尽くしていた。微かに震え始める。
「・・・これが・・俺だって?」
「あぁ!綺麗だろう?」
「これがか!?」
キッドはケース内にはまっているものを、コルチャの鼻先に付きつけた。
「この鼻輪がか!!!!!???」
ケースの中に光るものは銀色の美しい・・・鼻輪であった。
「えぇー!?」
と一人驚いて固まっているコルチャ。
周りは、特にセルジュはその姿のまま、言い放つ。
「コルチャさん・・よっほどキッドさんがお嫌いなのね。こんな嫌がらせをするなんて。おかわいそう」
セルジュは手を口元に寄せ、上品に笑った。堂に入りすぎて怖い。
「ちっ、ちっち!!違う!」
「うるせぇー!!!んなもん、寄越しやがって!!!てめ、月までぶっ飛ばす!!」
キッドはレナの服装のまま、足を振り上げるとコルチャの脳天に踵落としをし、持っていた杓文字でその身体を殴り飛ばした。
コルチャ、戦闘不能。

「・・キッドさん、はしたないわ」
セルジュは一瞬キッドの見事な足に見惚れたが、慌てて我に返って”リデルとして”キッドに言った。
「うるせー!お嬢さんは黙ってな」
セルジュはため息をつくと、舞台の上で『ダークセルジュ』に武器をつき付けたままの『セルジュ』に目線を戻した。
「・・・それより、セルジュ。ヤマネコを離しなさい」
「離しても良いけど・・・まだ目的が果たされていないからね」
「目的?」
「くくく、この前全財産をとられた事か?返してやっても良いが、無銭飲食になるぞ?」
リデルがふてぶてしく言い放つ。
何事もきっちりやらねば気に入らないヤマネコの性格を把握してこその台詞であった。
どっちが悪役なのか判断に困る。
「・・くっ・・・それはもう良い。それよりも、あの男のコレクションを引き渡してくれないかい?」
「・・・あの男?」
「・・・あいつだよ」
顎で方向を指した。その方向に居るのはヤマネコ姿で子供の描いた猫の絵に喜んでいるゾアの姿が合った。
ステージの上から憎憎しげに睨みつける。
セルジュも振り向き、ぎっと睨んだ。殺意を2人分感じたのかゾアがこちらを向く。セルジュもヤマネコもほぼ同時に目をそらした。


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