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ヤマネコ騒動記  第1話
スプリガン編



ここは、どこなんだろう?
古龍の砦で自分の姿をした”誰か”に次元を飛ばされて、気が付いたらここに倒れていた。周りは、まるで絵の具をこぼして塗りたくったような風景で水も木もまるで現実感がなく、そう・・・絵の中にいるような錯覚すら覚えた。
眩暈がする。
体も重い。
なんなんだろう、まるで自分の体ではないような感覚。
よろめきながら立ち上がろうとして、ふと手元に目がいった。

「・・・・!」

ショックで目の前が真っ暗になった。
なんなんだ?この手は。まるで・・そう、まるで、猫の手みたいじゃないか!!
驚愕に目を見開きながら立ち上がると、ゆっくり自分の体を触って見る。
顔・・・、頭、うで、足、・・・。
そ、そんなバカな!ゆ、夢だよね?
衝撃によろめきながら、滝と思われる透明感のないものに近づいた。
そっと顔を移して見るが、水面には何も移らなかった。
途方にくれて、その場に立ちすくむ。
だんだんと曖昧だった記憶が戻ってきた。
そう、僕がもう一人いて、何故かキッド達に戦いを挑まれて、倒れてしまったんだ。
それで・・・・・・・・。
その先を思い出すのは怖かった。
ううん、もうすでに知っていた。
けれど、思い出したくはなかった。夢だといいのに。こんなこと。
あぁ、もう何も考えたくないや。
ふと自分の立つ先にある木の幹から煙が出ていることに気付いた。
あれは、家だろうか?
何も考えられなくなった体は、勝手に動いてその家の扉の前に立った。鍵がかかってる。力づくで開けても良かったんだけど、その気力もない。ふとお腹が減っているような気がした。体はそれに反応して先ほど自分が倒れていた付近にある木の実の元へ歩かせた。
2〜3度ゆすって木の実を落とす。
ばたん!

「・・・え?」

音にびっくりしてそちらを見てみる。見ると家から出てきたものが、すばやい動きで僕の落とした木の実を拾い上げてまたすばやく入っていくのを見た。

「・・・・・?」

もう一度やって見る。
ばたん!がたん!

「・・・・・」

ともかく今は暖かな寝床が欲しかった。それに、鍵まで閉めて途方に暮れている旅人を締め出すなんてあんまりだ。出口はないし、もうやってられないよ。
不法侵入?もう善悪なんてどうだっていいや。
僕は妙に冷静な気分で3度目になる木の実を落とす動作を行った。
ばたん!
今だ!!
僕はダッシュで走り出すと、その家の住人が入ってくる前に中へと駆け込んだ。
「なんじゃ、不法侵入者め!」
僕の後から入ってきたのは、古ぼけた雑巾をこれまたヘドロに押し込んだような顔色の悪い小柄の老婆が立っていた。
「ん?おまえ、生きてるのか?ここに死人が・・・」
ごちゃごちゃ話してる老婆を無視して僕は外から見えていた運命の書の元へ歩き出そうとした。

「ちょいとお待ちぃ!」

「フミャン!」

老婆はよりにもよって僕の大事な尻尾を力いっぱい握り締めた。

「ししし・・・・尻尾!?」

老婆は僕の慌てぶりに怪訝な顔をして、どこか不気味なものを見るような視線を向けた。

「なんじゃ、おまえ、猫の亜人のくせに自分に尻尾がついてることがそんなに不思議かい?」

猫!?あ・・じん?
今まさに無意識に考えないようにしていた現実を付きつけられた気分だった。
本当に人間、今は猫だけど、ショックを受けた時本当に「が〜〜ん!」と音がするんだなと、思ったんだな。(←動揺のあまりピパピパ語ナンダナ)

「ちょいと、まさか今まで鏡を見たことないとか言うんじゃないだろうね?」

老婆の言い方はまるで田舎者をバカにするような響きがあった。
田舎者をな、バカにするとな、絶対にいつか自分もバカにされるんだな、因果ってものなんだな。

「ほら、これが鏡というものさ」

老婆は僕の心の叫びには気付かず、鏡を戸棚から取ってくると僕の前に置いた。
言いたいことは山ほどあったが、今はそれどころではない。
恐る恐る鏡を覗き込んでみる。

「ーーーー!!」

ネコだ、ネコ!ネコの目が僕を見つめてる。
予想はしていたとはいえ、ショックで目がくらむ。
ためしに手を挙げてみた。
鏡の中のネコも手を上げている。
まじまじとそのネコを見てみた。見れば見るほどごつい猫だ。そう思って顔をしかめると、耳がヒクヒク動いた。

「・・・・ふっ」

「フギャッ!」

老婆が突然鏡に中に入り込んできたなと思ったら!!!
なんとkこのババア!耳に・・い・・息を吹っかけやがった!

「ふぉふぉ、ネコと同じく耳がひくひくっとしよったぞ」

さも面白いように笑う。憎らしいことこの上のない。どうしてくれようか、この古ぼけた雑巾ババアめぇ・・。
しかし、しかしだ。
この姿はどう見たって猫である。いや、猫男とでもいうべきか。
それだけならまだいい、この顔形には覚えがある。キッドが追っていて、僕を何故か連れて行きたそうにしていた、怪しげなヤマネコ。
そうか、あいつ・・・あいつが、あの時の”自分”だったんだ!

「・・・・・・・・・・僕の体が目的だったんだ!」

「!!!!」

思わず口に出たセリフに思い切り反応した老婆は、そのままよろけると階段も使わずに下の階へと落ちていった。下でシャラランという「運命の書」の音がする。それには構わずに、僕はあいつへの怒りの炎をたぎらせた。だいたい僕の体で何をするつもりなんだろう?そういえば、何か妙なことを言ってたよな。
「クロノトリガー」だの「世界の敵」だの。あの時はネジがぶっ飛んだネコの言う事なんで気にしてなかったけど・・・。
世界の敵?トリガー?何の事だかさっぱりだよ。あぁぁ、もう全然わかんないよ。でも僕の体・・、そういえば、僕自分の体を斬っちゃったな・・・誰か治してくれたかな?海辺の町に住んでるにしては日焼けてもないし、シミだってないんだぞ、髪だって気にしてるんだ。父さんの記憶はないけどじいさんは、もう髪が薄くなってたし・・。遺伝するんだぞ!ハゲは!

「・・・お、おまえ・・・」

「あ?」

「か弱い老婆が階段、落ちていったのに助けにもこないんだねぇ!」

海辺の町は日光が強くて帽子なしだと、だんだんと頭髪が日焼けちゃってたいへんなんだぞ、あいつ、帽子もってるかなぁ?

「・・・・なのにねぇ!って全然聞いてないね!」

あたしゃもう寝るよ、ふん!と言って老婆はハンモックに上がっていった。その姿を見て急に眠くなってきた。そういえば、疲れてる。
僕は立ち上がると、ひとまず運命の書のもとへ行こうとした。

「ちょいとお待ち、せっかくだから休んでいきな」

なるほどそれもそうだな、と僕はその申し出を素直に受けた。
体は何よりも睡眠をとりたかったらしく、横になったとたん泥沼に沈むように眠りの淵へと沈んでいった。
<続く?>



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