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*ソードワールド・ネットTRPGパロディ小説*
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雨宿りの木の下で

蒸せ返るような暑さの中、太陽が急に隠れた時から嫌な予感はしていたのだ。
ほんの一瞬とも思えるほど、あっという間だった。
突然の雨。
叩きつけるような勢いの雨に、黒髪の少女は慌てて近場にあった大樹の下へ走りこんだ。
見上げれば先程までからりと晴れ渡っていた青空は、どす黒い雨雲に隠れていた。
幸い生い茂った緑が雨を遮ってくれている。

「ふぅ・・」
少女・・レインはため息をついた。急いで駈け込んだのに、全身ずぶ濡れて肌に張り付いたTシャツに眉根を寄せる。
頭の後ろでくくっている長い髪も濡れてポタポタと雫がたれる。
(ついてないな〜)
居候させてもらっている先の武器屋の主人の頼みで、街外れの家までお使いに行った帰りで、後少し歩けば賑やかな街中だというのに、運が悪い。
通り雨は激しさを増し、数歩先すら見えない有様である。
この場所は街外れの街道で、雨宿りできそうな建物は見当たらなかった。
(止むまで待つしかないか・・)
木の袂を見る、濡れた服で座り込むのは気が引けるが、走って来たのでだいぶ息が上がっている。
へたれ込むように座りこむ。
雷が鳴り響く。雨は止まない。
レインは木に背をもたれて、その音を聞いていた。
激しく地を打つ雨にふと思い出す。
(あれは・・)

あれは小さな頃だった。友達と喧嘩して無我夢中で駆け出した雨の日、今日と同じように大きな木下で雨宿りをしながら、泣きじゃくった。
理由は何だったか・・。
『−・・なんで・・女の子・・な・・のに・・』
幼い自分の泣きじゃくりながら必死に紡ぐ言葉にはっとする。
(そうか・・そうだったっけ・・)
『男の子に・・ならなきゃ・・ならなっ・・っ』

僕は子供の頃から・・物心つく前から男として育てられた。
自分は男の子だと思っていた。
何の疑問も持たないで、ずっと男として男の子達と一緒に野山を駆け巡ってた。
何時頃からか、自分が回りの友達と違うんじゃないかと思い始めてた。
母さんも兄さん達にも、聞いても何も言ってくれなかったけど。
少しずつ僕に対して態度が変わっていくから・・・・・。
始めて自分が『女』だと知ったのは7歳の時。
知ってから・・幼馴染の男の子達は、次第に僕を遊びに誘ってくれなくなった。
『レインは・・あれだから・・危ないし』
『そうそう。怪我しちゃったら大変だって』
事あるごとに、言われる言葉。
『違うやい!!僕も男だもん!行けるもん!』
必死に言っても、皆は困ったような苦笑いを浮かべたまま・・。
『まだそんな事言ってるのか?』
『寄せよ』
『言わなきゃ判らないんじゃないか?』
『だからって・・』
4人の・・小さな事からずっと泥まみれになるくらいまで遊んでいた仲間達はひそひそと小声で相談しあって、こちらをちらちらと遠慮がちに見ていた。
疎外感。今まで同じだと、同じ目線同じ年頃・・同じ立場だと思っていたのに、僕が違うから?女の子だから?
やがて1人が僕に近づいた。他の3人はおずおずと僕らを見ている。
『レイン・・お前ずっと俺達に嘘ついてたよな』
『っ!付いてない!!』
『だって俺の母さん言ってたぜ?レインは女の子だって』
『ちがっ』
『違うもんか。女の子だろ』
『・・』
そうだけど、そうじゃない!。
女の子だけど、女の子じゃない!。
『僕は・・皆と一緒だもん・・』
拳をぎゅと握り締める。気を抜いたら泣いてしまうから。
泣きたくなかった。一度も泣き顔を見せたことが無かったから。
幼馴染の男の子達は、また一様に苦笑いを浮かべた。
”まだ言ってるよ・・”そんな表情。
(どうしてそんな顔して僕を見るの!?)
どうして飽きれる?どうして苦笑いを浮かべる?
・・なんで、ほんの少し前と態度が違う!?
僕が女の子だから?
僕が男の子じゃないから?
僕は僕じゃないか!
必死に止めていた涙が意識せずにポロリと頬を伝った。
涙を認識したとたん、我慢できなくなった。
急に泣き出した僕に、始めて泣いてる醜態を見せた僕に、奴らは戸惑ったように
顔を見合わせた。
そして言った。
『・・女ってすぐ泣く』
『泣けば良いかと思ってるよな、女の子って』
『やっぱりどんなに言い張っても女の子だよ』
『レインも女の子なんだな』
声と内容を・・認識したとたん、地面がなくなったような、目の前が暗くなるような、
ショックを受けた。
そしてどこか遠くで、音がした。

打ちつける雨の激しい音に掻き消される事を感謝しながら僕は泣いた。
拳はじんじんと痛みを発している。人を殴ったのは始めてだったから
拳を痛めたようだった。
4人を殴りつけて、思いきり蹴ったり引っかいたり。相手が僕を『女の子』
だから反撃しないのに、更に苛立って。
そのまま無我夢中で走って来た。
気が付けば身も心もずぶ濡れで、木の袂に座りこんで泣いた。
『−・・なんで・・女の子・・な・・のに・・』
雨音は更に激しくなるばかり。
『男の子に・・ならなきゃ・・ならなっ・・っ』
どうして自分は『男の子』じゃないのだろう。
どうして自分は『女の子』なんだろう。
『い・・今更っ・・』
女の子になんて今更なれやしないのに。
性別上はどうであれ。周囲に居る綺麗な女の子や可愛い女の子。憧れて止まないのは、自分がとうていそれから程遠い事を熟知してるからだ。
どっちにも、なれないのに。
真っ黒に日焼けして、怪我ばかり。こんな僕が今更『女の子』な格好をしても似合うわけが無い。
今更なれやしないのに。今更男の子にもなれやしないのに。
日が暮れても止まない雨の中、お兄ちゃんが迎えに来てくれた。
3人居る兄たちは心配性で、あちこち走り回ったらしい。
僕は始めて、お兄ちゃんにすがって更に泣いた。

「ぅ・・ん?」
雨音に目を開ける。どうやら寝ていたようだ。
レインは顔を上げると、ぼんやりと一向に弱まらない雨を眺めた。
ふと何かに気づいて頬をぬぐった。雨ではない雫がぽたりと顎から地面に落ちる。
(・・バカみたい。泣いてるなんて)
夢の中で泣いてる夢を見たら、実際に泣いていたという事はよくあるけれど、こんな昔の夢を見て泣くなんて・・。
「・・情けないなぁ」
思わず口に出しても、誰も居ない空間に空しく響くだけ。その声も雨音に掻き消されて自分にしか聞こえない。
ため息をついて暗い空を見上げた。止みそうに無い雨。
(・・未だに引きずってたんだな・・僕ってば)
そう思って口元に微笑が浮かぶ。
(未だに男の格好をしてる時点で、わかることだろうに・・バカだなぁ)
16になった今でも、男装をしている自分。
だけど。
(だけど・・)
あの雨の日の次の日、家を飛び出してから4年後。出会った仲間達は僕を受け入れてくれた。
在りのままを。
僕が『女の子』だって判っても態度を変えない奴も居た。
他のメンバーもうっすらと気がついてるかもしれない。
その事にどれだけ、どれだけ・・・救われているか、きっと知らないだろうけど。
(・・すごく嬉しかった)
それに。
それに最近ふと誰かを見ていて想う事がある。
それがどんな想いなのか、判らないけど。
『女の子に・・なれたら良いな』って。
今更なれないと思うけど。今更僕には無理だって思うけど。
なれたら・・なれたら・・少しは変わるだろうか。
滑稽なだけかもしれないけど。
諦めないで頑張ってみたら・・。
今の中途半端な自分でも少しは変われるだろうか。

ふと雨音が聞こえなくなった事に気づいて顔を上げた。
「わっ・・あ・・」
暗く重苦しい雨雲の隙間から日差しが差し込む。黄金の光がスポットライトのように照らす。
「虹だ・・」
七色の大きな橋が空にできていた。
「綺麗・・」
雲は風に乗って流れていく。徐々に広がっていく夕方色の空。
(帰ろう)
すとん、と心に浮かんだ言葉。帰ろう。雨も止んだし、早く皆の元に。
レインは立ちあがると大きく延びをした。
木を振り仰ぐと、今まで冷たい雨から自分の身を守ってくれていた常緑樹がとても大きく見えた。
常緑樹は旅をする人々が、こうやって雨宿り出来るように植えたといわれる。
雨宿りの木の下は、あらゆる物語が存在するに違いない。
別れも。出会いも。
そして出発も。

レインは微笑を浮かべて、木に背を向けて走り出した。
輝く虹の彼方へ。
新しい未来に向かって。



この話は吉原もとさんが主催するオリジナル同人誌企画「れもんすかっしゅ」に参加し投稿させてもらいました作品です。
始めに書いたのを自主ボツにして、急いで書いたのがこの話です・・いや、違うか。この話とストーリーは同じだが著作権(笑)問題でボツになって永遠に闇に帰った結末が違う話の後に書きました(笑)←前書きなのに長いよ

そっちとこっちの結末の違いはまるで、あれですよ。ギャルゲーのようです。狙った相手の好感度が高かったら迎えに来てもらえて・・・とかそんな感じ。
だよな?(誰かに聞いてるし)
読みなおして比べてみてそれに気がついて、大爆笑でした。面白いね〜(笑)いっそ全キャラ書こうか(笑)個人的にはデッド君に迎えに・・・しまった傘持てません(笑)
後。コレほどまでの大雨に足留をくらったレイン・・・何かの恨みを買ってるからだろうとか思ってしまいました・・雨関係だしねェ・・・どう思う?(誰に聞いてる)

後もう一つツッコミをば・・・。
大雨降って雷ゴロゴロの場合、雨宿りして木の下に座りこむのは自殺行為だぜ?木に雷落ちたら即死です。多分。ある意味常識。

っーことでまともに後書きでも。
何が書きたかったのかというと「女の子の自覚」と言いますか。何故男装してるのかとか、設定としてはあるが本編では出しそうにない感じなので、お元気お転婆娘さんの違う面も書いてみたかった・・だけっぽい(笑)
ちなみに実話テイストです。どの辺かが。

在る意味で。自分の中のあるこだわりが、根元にあるキャラなのかもしれない。レインって。
ただ、そこで諦めたり嘆いたりで終わらない。どこまでも突っ走っていて欲しいです(笑)常に青春していてほしい(笑)
この話に出てくる人物は全員名前を出してないですけど。(出せなかったのですけどね)
誰のことを指しているのかとかは、想像にお任せします。

最後に「レモスカ」に誘ってくださった吉原さん、感想をくださった方々どうもありがとうございました。そして、読んでくださって本当にありがとうございます。




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